ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学

編集部:国士舘大学の文学部教育学科は、何を学ぶところですか?

 文学部には「教育学科」「史学地理学科」「文学科」の3つの学科があり、全部で5つのコースが設けられています。この中で私が教えているのは、「教育学科」の中にある初等教育課程「初等教育コース」です。名前を見ても分かるように、ここは小学校?幼稚園の教員を養成するところです。
 文学部全体にいえることですが、「一人ひとりの顔が見える教育」を重視して、徹底した少人数制教育を行っています。「初等教育コース」も40名の定員に対して、用意している専任教員の数は11名です。他と比べても、かなり手厚い体制といえるでしょう。学生の進路として多いのは小学校の先生ですが、幼稚園の先生になりたいという学生や、民間の塾や一般企業に就職する学生もいます。一人ひとりの学生をしっかり見て、きめ細かい指導を行っています。

編集部:先生はどのような授業を担当なさっているのですか?

 小学校の教員は全教科を子どもに教えるので、全ての教科についての知識と教え方を習得する必要があります。その中で、私は自分が専門で取り組んできた理科の指導法を学生に教えています。
 まず、私が担当している授業は「理科概論」というものです。学生が1年次に取る授業で、ここで小学校の教員として必要となる理科の基礎的な知識を身につけてもらいます。
 2年次になると「理科の理論と実践」という授業があって、ここで初めて学生に1人8分間の授業をやってもらいます。わずか8分間ですが、やってみると難しいんです。学生は自分が学校で授業を受けてきたから、やれば簡単にできると思っています。でも、実際にやってみると全然うまくできない。自分の抱いていたイメージと実際のギャップに愕然とするんですね。ここが第一の試練です。
 続いて、3年次になると「教科教育法(理科)」という授業があり、ここで理科実験を含めた45分間の授業をやってもらいます。2人1組のチームで、授業の前半と後半を担当していきます。この授業は結構たいへんで、学生は授業の空いた時間や放課後に理科室に来て、予備実験をしたり、授業の用意をしたりしています。理科室は私の研究室の隣なので、いつでも相談にいらっしゃいと言っています。

編集部:「卒業研究」という授業がありますね。これはどういうものでしょうか。

 「卒業研究」は「卒研」と呼ばれていて、一般の大学では「ゼミ」に相当するものですね。私は3年生と4年生の卒業研究を担当しています。
 卒研のテーマは、学生によってまちまちですね。近いところでは、「昆虫の標本づくり」をテーマに選んだ学生がいました。虫は自由に動き回り、触るとよけいに暴れるし、今の子はあまり触りたがらないから昆虫を知るためにプラスチック樹脂で固めた標本を使って授業をやるという研究です。その上で実物の観察は必須です。他には、「植物育成器」を使って行う授業を研究した学生もいました。小学校5年生の理科では「条件制御」がテーマになるのですが、植物育成器を使うと光の当て方や肥料のやり方が簡単に制御できます。それを使った教材の開発ですね。教員養成の学部の場合、他大学では卒業論文を求めないところもありますが、本学はより深い学びのために卒業研究の提出を義務づけています。

編集部:先生は小学校に出向いて、教員を指導することがあると伺いました。これはどのようなものですか?

 いくつかの形態がありますが、例えば、そのうちの1つに「授業支援チーム」と呼ばれる取り組みがあります。現場で教えている教員の研修のようなものです。キャリア5年ぐらいの小学校教員が対象で、授業を見させていただき、質問をしたり意図を聞いたりして、教員のスキルアップにつなげていきます。私の他にも教育委員会の人や校長先生も一緒に参観します。例年、この研修には本学の学生も連れていきます。他の先生の授業を見ると、「ここがいい」とか「なぜ、このように指導したのだろう」ということが、よく見えるんですね。とてもいい学びになります。できるだけ数多く、学生を現場に連れて行ってあげたいと思っています。

編集部:他にも学生が学校現場に入るチャンスはあるのですか?

 はい。毎年夏休みの時期に、本学の近くにある小学校で「面白実験教室」というものを開催し、そこで学生に実験をやってもらっています。空気砲や巨大シャボン玉、ブーメランなどの実演ですね。空気と水の性質は小学校の3年生で教わることですが、子どもたちは空気の存在を分かっているようで分かっていません。だから、色の付いた煙を空気砲で飛ばすことで、「空気は見えないけれどあるんだよ」ということを体験してもらいます。ブーメランは高学年向けですね。回転させて投げると、手元に戻ってくるでしょう。自分で投げて遊びながら、その中で、なぜ戻ってくるのかといった原理の説明を織り交ぜていきます。この実験教室は一度実施して評判がよかったので、毎年続けてきましたが、昨年度は残念ながらコロナウィルスの関係で中止になってしまいました。

編集部:近々、川崎市の中学校で、学生さんが理科の授業をされるそうですね。

 はい。川崎市の南生田中学校の総合的な学習の時間にキャリア在り方生き方教育の一環として「構座学習」というものがあります。そこでは、環境?エネルギー?人権尊重等を課題とした、10の講座を開設しています(2021年度)。そこに4名の学生を連れていき、骨格標本を組み立てる講座を行います。
 対象は中学1、2年生で、画用紙の骨格標本をみんなで組み立てていくという授業です。簡単そうに見えて、やってみるとこれがなかなか難しい。生徒は自分で組み立てながら、友だちのを見たり、みんなと相談したりして作り上げていきます。理科の知識だけでなく、みんなと協力し、話し合って一つの考えをまとめていくということも学ぶ授業です。60分間の授業ですが、内容が盛りだくさんなので、結構たいへんです。今、学生は隣の理科室で、一生懸命授業の準備をしていますよ(笑)。

編集部:先生は、川崎市の学校で教員をされていたそうですね。教員を志すきっかけは何でしたか?

 私は国士舘大学に来る前に、市立の高校で10年、公立中学校で11年、国立の中学校で4年、理科の教員をやってきました。教員になろうと思ったきっかけは、小学校6年生のときですね。担任の先生がいろいろな先生を呼んできて授業をやってくださったのです。そのときに教えてくれた理科の先生がすごく良かった。豆電球のつなぎ方の授業で、僕だけ他の子と違うつなぎ方をしてたんです。正解は別にありましたが、その先生が「これも正しいよ」と言ってくれて、それが嬉しかった。もともと好きだった理科が、もっと好きになりましたね。それで将来は理科の先生になろうと思いました。

編集部:先生は主にどのような研究をなさっているのですか?

 私の専門は「教え方」の研究ですが、その中でも学習動機、どうすれば子どもは興味を持って学びたくなるのかということを研究してきました。子どもって、物事が分かってくると嬉しいんですね。それをうまく学習動機に結びつけていく。それがないと深い学びには至らない。そこをどうやって見ていくのか、どうやって作っていくのかということの研究です。
 修士論文は「子どもの論理構築を志向した理科の教授スキームに関する研究」というものを書きました。授業を組み立てる枠組みの部分の研究ですね。それを博士課程では、学習動機を入れて発展させていきました。ベースには教育学における「構成主義」という考え方があります。そこを理解して、学生には授業を作っていってほしいと思っています。

編集部:「構成主義」とは、どのようなものでしょうか?

 子どもはもともと頭の中に考えを持っています。そこに外からいろんな情報が入ってくると、自分の考えと照らし合わせて、「これと似てるな」とか「これとは違うな」とか、そういうことの関わりの中で考えを作っていくんです。知識は与えられるものではなく、子ども自らが構成していくものであるというのが構成主義の考え方ですね。この考えに則って授業を作っていくと、「授業とはこうあるべきもの」ということが見えてきます。そういう視点で授業を作っていくとどうなるんだろう、ということを学生には学んでほしいと思っています。

編集部:具体的にいうと、それはどのような授業になるのでしょうか?

 たとえば、小学校3年生で、コードをつないで豆電球を点けるという実験をやります。教科書通りにつなぐと豆電球は点きますが、そのときに「コードの中をどんな風に電気が流れているんだろう」という問いを立て、子どもたちにその答えを絵に描いてもらいます。するといろんな考えが出てきます。「水みたいに流れているんじゃないか」とか「両極から電気が出て、豆電球のところでぶつかって光るんじゃないか」とか。それを否定せずに受け止めて、自分なりの考えを自由に表現してもらいます。
 次に、学年が上がって4年になると、今度はモーターを回す実験をやります。同じように子どもたちはいろんなつなぎ方をしてモーターを回しますが、プラスとマイナスを逆につなぐと、人によってモーターが逆回転するんですね。で、「何でなの?」という話になる。「両極から電気が出て真ん中でぶつかる」という考えでは、説明できなくなります。そうやって自分なりに考えて、理解を深めていくわけです。その時点の子どもの考えをちゃんと価値づけてあげて、それを発展させながら、どの考えがいいのかなということを構築していく。これが構成主義に基づく学び方です。

編集部:単に知識を与え、覚えさせるだけではだめということですね。

 そうですね。今の時代、ネットからいくらでも知識は入手できますから、単に知ってる知らないという意味においての知識の価値は下がっていると思います。もはやそこにはあまり意味がない。それが分かっていれば、自ずと教え方は変わってくると思います。ただ、現場で教えている先生でも、まだ分かっていない人は多いですね。
 私は学生に、指導案を作るときに漫画を描いてもらっています。教室での子どもたちとのやりとりを、より具体的にイメージできるようにするためにです。漫画といっても、子どもとのやりとりが分かればいいので、棒人間みたいなものでいいよと言っていますが、結構うまく書いてくる学生が多いですね。教員志望の学生は、他の教科の授業でも指導案を作らなければならないので大変ですが、みんな主旨を理解して一生懸命やってきてくれます。

編集部:卒研旅行というものがあるそうですね。これはどのようなものでしょうか?

 この合宿は年に1回実施しているもので、卒研の3年生と4年生が一緒に行きますが、そこに卒業生も参加してきます。2年前は2月に実施して、北海道に流氷を見に行きました。その前の年は、千葉県の房総半島にある「チバニアン」という地層を見に行き、その前の年は秩父の長瀞ですね。ただ遊びに行くだけではなく、地学巡検の要素を採り入れ、夜には勉強会を開きます。卒業生は、多くが教員になっているので、学生にとってはよい学びや刺激になります。今年はコロナの関係で、宿泊は難しいので、日帰りのバス旅行で計画しています。

編集部:最後に伺いますが、学生には将来、どのような先生になってほしいとお考えですか?

 うーん、難しい質問ですが、強いていえば「深く好かれる先生」になってほしいかな。ただ好きというだけではなく、人として好かれるような先生ですね。小学校の教員の場合はなかなか難しいかもしれないけれど、卒業した後も関係性が続くような、なんかあったときに相談に行きたくなるような先生ですね。
 私自身、大学でも学生にどんどん相談に来てほしいと思っています。困ったときとか、行き詰まったときに、大学に行けばなんか新しいことが転がっているとか、気軽に相談できるとか。愚痴を言いに来るだけでもいいんです。私が卒研旅行に卒業生を誘うのには、そういう意味合いも含まれています。
 それと、もう一つ。学生に「なんで先生になりたいと思ったか」と聞くと、ほとんどの学生が、なろうとしたきっかけを話すんです。昔習った先生の話とか。でも、この設問はそれを聞いているんじゃない。「なぜ先生になりたいと思ったか」という質問は、「先生になって何がしたいか」ということを聞いているんです。教員の採用試験でも、たぶんこれは聞かれると思うので、考えておいてほしい。「なぜ自分は先生になりたいのか」「教員になって何がしたいのか」。自分なりの明快な答えを持って、教員になることを目指してください。

小野瀬 倫也(ONOSE rinnya)教授プロフィール

●博士(教育学)/東京学芸大学 連合学校教育学研究科 自然系教育 博士課程 終了
●専門/教科教育学、初等中等教育学、科学教育

掲載情報は、2021年のものです。
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