ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
理工学部の成果

編集部:国士舘大学の理工学部理工学科で、学生たちはどのようなことを学ぶのですか?

 国士舘大学の理工学部は、「理工学科」のみの「1学科6学系」というユニークな制度を採用しています。2007年に工学部が理工学部になったとき、いろいろ議論があってこうなりましたが、いまでは本学部の特色のひとつになっています。理工学という広大な教育分野のうち、「機械工学系」「電子情報学系」「建築学系」「まちづくり学系」「人間情報学系」「基礎理学系」の6学系を有機的に結びつけ、各自が自分の将来を考えて履修計画に沿って学べる内容となっています。また、受験時に入学後の学系を指定する「セレクティブタイプ」と、学系を指定しないで1年次の春期中に所属学系を決める「フレキシブルタイプ」のいずれかを選択することもできます。このように本学部では、自由度の高い学びの環境を用意することで、幅広い教養と知識に裏付けられた視野の広さと大局的な判断力を養いながら、自らの夢を実現するための専門性を高めていきます。

編集部:先生が教えてらっしゃる「電子情報学系」は、どのような専門分野なのでしょうか?

 名前が示す通り、「電子」と「情報」の2つの学問がひとつに合わさったものです。かつては「電気工学」と呼ばれていましたが、2007年に理工学部ができたときに、「電子情報学系」としてスタートしました。「情報」というのは、情報工学のことで、いわゆるITです。高校でも「情報Ⅰ」が2022年度から必修科目なることから注目を集めているのではないでしょうか。私は主にその「情報」の方を教える教員です。
 高校生から見た「情報」の職業イメージは、2つあると思います。1つはSEで、もう1つはプログラマーです。しかし、私としてはこのどちらも学生にはあまりお勧めしていません。というのは、このどちらも情報系の職業の一端を切り取ったものにすぎないからです。せっかく大学に来て電子情報の分野を学ぶのですから、高度な専門性や幅広い知識が生きてくる職業、たとえばネットワーク技術者のような「エンジニア」を目指すことを私としては学生に勧めています。さらに大学院にも進学して、より専門性を高めて欲しいですね。
 いまやITは生活に欠かせない技術です。すべてがITとつながっている時代なので、電子情報を学んだ学生には幅広い進路が開けています。大学でいろいろなことを学び、経験して、失敗もたくさんして成長してほしいと思っています。

編集部:「電子情報学系」では、どのような授業を担当されているのですか?

 私は1年生から3年生までのさまざまな授業を受け持っています。ここでは代表的な授業を紹介しますね。たとえば、1年次の必修科目に「電子情報の基礎および演習」という授業があります。この授業は電子情報学系にいる9名の教員が全員で受け持っていて、座学が1コマ、演習が1コマを合わせた週2コマの科目です。学生は電子情報学を学ぶために必要な基礎知識をみっちり学びます。
 2年次には「オペレーティングシステム」という授業があって、WindowsやmacOS、Android、iOSなど、コンピュータやスマートフォンを維持管理するための基本的なシステムであるOS(オペレーティングシステムの略)について学びます。また、「システム工学」という授業では、コンピュータがどのようなメカニズムで計算し、動いているのかを学びます。
 さらに、3年次になると「デジタル通信」という授業があって、計算機ネットワーク、つまりインターネットについて学びます。
 特徴的なのは、2年次に行われる「電子情報実験」という授業でしょうか。実験といっても私が春期に受け持っているものは、手を動かす実習に近いもので、テスターの製作を通して「半田付け」のやり方を習得してもらいます。
 このようにいろいろな授業がありますが、電子情報の世界で生きていく上で誰もが必ず身につけておかなければならない知識やスキルを、学生たちは幅広く学んでいきます。

編集部:ゼミでは、どのようなことを学ぶのでしょうか?

 電子情報学系には9名の教員がいて、9つの専門性の高いゼミナールがあります。私が担当するゼミでは、「アルゴリズムとデータ構造」を学びのテーマにしています。
 「アルゴリズム」とは計算手順のことで、「データ構造」とは情報の持ち方のこと。詳しく話すと難しくなりますが、要するにアルゴリズムとデータ構造をセットにして考えると、コンピュータの計算効率に違いが出てくるということなんです。データをどう並べて、どういう順番で計算していくか、それだけで処理スピードが速くなったり遅くなったりします。たとえばシューティングゲームでは、1秒間に30回ぐらいデータを書き換えています。30分の1秒というのが1つの単位になっていて、その中で処理を終えないとゲームが不自然になってしまう。いかにコンピュータの計算効率を上げて速度を速くするか、それに関わっているのがアルゴリズムとデータ構造なんです。
 ゼミではみんなで専門書を輪読していきますが、その中で私が工夫しているのは、学生自らが教える立場になってもらうこと。人に教えるのが、いちばん勉強になるんですよね。だから、まずは分担を決めて、自分が発表する分についてはパワーポイントなどで資料を作り、先生になったつもりで教えてくださいといっています。

編集部:4年生のゼミでは、卒業研究をやることになるのですか?

 はい、4年生になると卒業研究が始まります。5月末には研究テーマを決めて、大学に提出することになっています。提出するのはA4用紙1枚の書類なんですが、学生には用紙が埋まるくらいの文章をきちんと書くように指導しています。社会に出て企業などに入ったら、計画書や報告書を作成することになりますよね。ですから、いまのうちにしっかりとした文書を作成できるようになってほしいと思っています。「理科系の作文技術(木下是雄著/中公新書)」という本をみんなで輪読して、一人ひとりが書いた提出書類を私が個別に添削していきます。添削には、膨大な時間がかかります。

編集部:卒業研究のテーマは、どのようなものがあるのですか?

 卒業研究のテーマを決めるに際して学生に言っているのは、まず、身の回りにある「困ったこと」を探してごらんということです。なんでもいいから困ったことを見つけて、それをどうやったらITの技術で解決できるかを考えれば、それが研究テーマになります。
 たとえば、弓道をテーマに選んだ学生がいました。弓道というのは矢を飛ばすので、危ないんですね。また、「型」を重視するスポーツなので、指導者が付き添って練習する必要があります。これが、その学生が発見した困りごと。では、それをどうやったらITで解決できるかということが、研究テーマになりました。具体的には、当時販売されていたゲーム機用のオプションのハードウェアを使うことが提案されました。それには三次元カメラが付いていて、人間を撮影すると3Dの「棒人間」にしてくれます。人間の身体の動きを点と線で表したものですね。この点と線を数学を使って処理をして、自分のフォームがどれくらい正しい型とズレているかが判定できるので、指導者がいなくても練習できるようになります。
 また、別の学生は、「ゼミ選びに困った」と言って、それを研究テーマに取り上げました。電子情報学系には9つのゼミがあって、それぞれの卒業研究の概要をまとめた「予稿集」を発行しています。その予稿集の文章中に出てくる品詞を分解抽出して、どの名詞が多く使われているかを示して可視化すれば、ゼミの傾向が見えてくるのではないかというわけです。ちなみに、私のゼミでは「システム」とか「認識」という言葉が多く出てきました。
 このように卒業研究のテーマは、なるべく学生の発想に寄り添って決めています。やって欲しいテーマもあるのですけど、やはり学生が自分で決めるのが一番ですからね。4年間の集大成として生き生きと研究できるように、テーマ決めには気を配っています。

編集部:ゼミの配属発表を、卒業研究の発表会の日にやるそうですね。これにはどんな意味があるのですか?

 はい。4年生の卒業研究発表の日に、あえて新しくゼミに入ってくる2年生の配属を発表します。新ゼミ生に、先輩がどんな研究をしているのかを見てほしいという意図でやっています。
 これをやると、けっこう面白いことが起こるんですよ。たとえば、いま紹介した「ゼミ選びのシステム」をテーマにした4年生の発表を、2学年下の新ゼミ生が聞いていました。そして、その学生が4年生になったときに、「私もあれと同じ研究をやりたい」と言ってきたのです。先輩の卒業研究発表を見て感銘を受け、それに触発されたのでしょう。
 ただ、同じことをやっても面白くないよねということで、その学生にはもう少し別の要素を加えることを考えてもらいました。そうして、私のアイディアを入れながら考えたのが、就活における「研究室」と「企業」のマッチングシステムでした。まず、「研究室」でよく使われるキーワードを抽出し、さらに、就職活動の対象となる「企業」の説明サイトにあるキーワードを抽出します。途中の処理はAIの概念を使った専門的なものですので省きますが、その両者を照らし合わせることで、どの研究室とどの企業の親和性が高いかが分かるというものですね。この学生は大学を卒業してからも頑張っていて、「東京都オープンデータアプリコンテスト2018」で、知事賞(最優秀賞)と来場者特別賞を受賞しています。

編集部:先生のゼミでは、3大学の「合同合宿」というのもやってらっしゃいますね。これはどのようなものですか?

 その合宿は、私が他大学の知人の教員に声をかけて実現したもので、毎年夏に行っています。国士舘大学を含めた3つの大学に所属するゼミ生が、一堂に会して合宿を行い、卒業研究のテーマを発表しあうというものです。総勢40名前後のそれなりの規模になります。学内だけに留まっていると、どうしても「井の中の蛙」になりがちです。だから、学生にはキャンパスの外に出て、いろいろな人と会ったり、活動をしたりしてほしいと思っています。私はこれを「他流試合」と呼んでいるんですけどね(笑)。夏合宿の他に、2月にも同じメンバーで集まって、卒業研究の発表をしてもらいます。残念ながら、去年と今年はコロナ禍で合宿は中止になりましたが、オンラインでは続けています。世の中が平常に戻れば、ぜひ合宿を再開したいと思っています。やはりオンラインでは学びや気づきが少ないですからね。

編集部:先生ご自身は、大学でどのような研究をなさっているのですか?

 広い意味でいえば、人工知能、つまりAIと呼ばれる分野の研究をやっています。前に務めていた研究所でも、AIを研究しているセクションにいました。もう少し具体的にいうと、HCI、ヒューマン?コンピュータ?インタラクションと呼ばれる研究分野に携わっています。人間とコンピュータの境界を扱う研究ですね。もともとやっていたのは、オペレーティングシステムやインターネットの分野で、ハードウエアを制御するためのソフトウエアや計算機ネットワークの研究で論文を書きました。いまは、AIを使ってどのような課題を解決できるかということを主に研究しています。

編集部:なぜ、このような専門分野に進もうと思われたのですか?

 そうですね。小学生の頃からコンピュータは好きでしたね。高校生の頃には興味のあることが3つあって、1つは音楽、私の場合はキーボードですね、もう1つがオートバイ、そして3つ目がコンピュータでした。家にはコンピュータがなかったので、友達の家に行って使わせてもらったり、電器屋さんに行っていじったりしていました。当時の憧れはプログラマーだったんですが、一時期は教員になりたいと思ったこともありました。ただ、当時は IT系の職業として思いつくのがプログラマーぐらいしかなかったのですが、大学に入って情報工学を学ぶうちに、いろいろなことが分かってきて面白くなってきました。で、大学4年間の学びでは物足りず、大学院に進んで研究の道に足を踏み入れたわけです。いまは、教員とITがセットになった仕事ができているので、ある意味、夢が実現したともいえますね。

編集部:最後になりますが、先生は4年間の大学の学びを通して、学生にどのような力を付けてほしいと思っていますか?

 その答えは、揺るぎないというか、もう明快ですね。「自分で考える人」になってほしいと思っています。私が学生によく言うのは、「みなさん、マニュアル人間にはなりたくないでしょう」ということ。コンビニなどでアルバイトをするとマニュアルがありますよね。でも、マニュアルはマニュアルでしかなく、本当にその人の真価が問われるのは、突発的なトラブルが起きたとき、どう対応できるかということです。電子情報学系は、非常に応用の幅の広い分野です。ぜひ、自分の頭で考えて、応用できる人間になってほしいと思っています。
 そのために必要なのは、何でもやってみることです。本を読むことはもちろんですが、自分で手足を動かして活動することが大切です。できないことに挑戦してみるのもいいでしょう。私は長期の休みに入る前に必ず学生に言うことがあります。それは「何か活動してください」ということです。富士山に登ってみるのもいいし、パズルを組み立ててみるのもいい。私がそう言ったら、ある学生が休みあけに、「先生、僕はヒッチハイクで九州まで行ってきました」と報告してくれました。そういう行動力のある子は、やっぱり就職も一発で決まるんですね。
 ぜひ、いろいろなことに挑戦してください。楽しいことばかりじゃなく、失敗したり、挫折したりすることもあるでしょうが、それもすべていい経験になります。大学の自由な時間をめいっぱい利用して、人間の幅を広げ、自分で考えられる人になってください。そうすれば幅広い活躍の道が開けてくると思います。

中村 嘉志(NAKAMURA Yoshiyuki)教授プロフィール

●博士(工学)/電気通信大学 大学院情報システム学研究科 情報システム設計学専攻
●専門/情報システム学、情報通信工学、メディア情報学、人工知能学

掲載情報は、2021年のものです。
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