学びのそのさきへ。ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
政経学部 経済学科 准教授 石山 健一 × 2018年度 政経学部卒業生 岩上 佑介 政経学部の熱量 計量経済学のゼミで先生から学んださまざまなことの意味が、仕事を始めてから分かるようになってきた。

国士舘大学政経学部経済学科を卒業した岩上佑介さん。石山健一先生のゼミでは計量経済学を専門に学び、現在は株式会社しまむらに勤務しています。学生時代にアメリカ横断旅行をするなど、さまざまなユニーク体験を積んだ岩上さんと石山先生の対談をもとに、国士舘大学政経学部での学びと、その先の進路についてご紹介します。

大学時代の学びについて

編集部
石山先生は、政経学部でどのようなことを専門に研究されているのですか?
石山
私の専門は計量経済学です。計量経済学というと、理論の妥当性を検証する方法などについて数学的に考察したりする学問なのですが、私の授業では経済モデルという架空の世界を作って、そこでさまざまなことをシミュレートしたりもしています。
編集部
どのようなことをシミュレーションするのですか?
石山
たとえば、増税すると経済はどうなるか。景気が悪くなるという人もいますが、それだけではダメですね。根拠がないから。実際に消費税を10%から15%に上げるとGDPにどれくらい影響が出るか。経済モデルを作ってシミュレートすると具体的にいろいろ分かってきます。費用対効果でいえば、この方法がベターだとかね。そういう数字を手に入れて、世の中のために役立てる学問が計量経済学です。岩上くん、覚えてる? 計量経済学の授業を取っていたよね。
岩上
はい、確かに取ってました。
編集部
先生は、ゼミではどのようなことを教えているのですか?
石山
専門ゼミは3年生からですが、最初はあまり難しいことはやりません。人によって数学が得意だったり、スポーツが得意だったり、いろいろですから。3年生のときには主にグループワークを中心にやっていきます。
編集部
グループワークではどのようなことを?
石山
社会にどんな問題があるかをみんなで発見するということをやります。世の中、一見、平和に見えても、探せばいくらでも問題があります。その問題をどう解決するか。また。その問題に対して専門家はどのように考えているか。そういったことを調べていきます。あとは架空の問題を自分たちで作りあげ、それを解決する方法を探り、解決策を発表するというワークもやります。
編集部
架空の問題とは?
石山
たとえば、架空のカフェを想定します。そのカフェの売り上げが、店の回転率が悪くなって下がってきた。この問題に対して、どのような解決策があるかをグループで考えていきます。
編集部
どのような解決策が出たのですか?
石山
分析の結果、携帯電話やノートPCの普及率が上がり、コンセント有の席に居座る人が増えてきたことが分かりました。だから、コンセント有の席を減らし、代わりにソファ席を増やすという解決策を学生は導き出しました。具体的に席を入れ替えることでどれくらい回転率が上がるかを計算し、最終的には、客単価がどれくらい向上するかまで割り出していましたね。
編集部
なるほど。面白い学びですね。
石山
大学の学びを高校の延長だと考えている人もいるかもしれませんが、私は違うと思います。大学は確かに知識を修得する場ではあるのですが、自ら知識を発見するための場でもあるのです。大学の教員は研究者です。研究者は、これまで誰も解いたことのない問題を解く人たちです。そのような発見をする人たちが教えるから、学生も問題に対するアプローチが見えてきて、誰も解いたことのない問題が解けるようになるのです。
編集部
学生が新しい答えを見出すということですね。
石山
そうです。たとえば、日本がワールドカップで優勝するためにはどうすればいいのか。誰も答えは持っていません。でも、ひょっとしたら、今の大学生がその解を見つけるかもしれない。高校までは大人のいうことを素直に信じて、知識を吸収すればいいのですが、大学生になったら批判的な思考もしなくてはなりません。専門家の言うことを鵜呑みにしてはいけない。
岩上
そうそう、そうおっしゃっていましたね。疑ってかかれと。
石山
学問は全能でも万能でもありません。社会はまだまだ未熟なところがあるし、知らないこと、わからないこともいっぱいです。だから大学生にはピュアな目で見て、専門家が言うことはもしかすると違うんじゃないか、こうした方が良いのではないかと進言してほしいんです。私たちはそれを期待しています。
岩上 
ゼミにいたときは分からなかったけど、今その話を聞いていたら、とても楽しいです。もう一回やりたいです、大学生を(笑)。

政経学部を選んだ理由

編集部
岩上さんはなぜ、政経学部の経済学科で学ぼうと思ったのですか?
岩上
いろいろな学部や学科がある中で、将来自分の役に立つのはどこかなと考えて、経済を学びたいなと思いました。ざっくりした感じですけど。
編集部
専門ゼミでは、どのようなことを研究しましたか?
石山
岩上くんの卒業研究は、バイクに関連したことだったよね。
岩上
はい、バイク関連でやりましたね。
石山
バイクが好きというところで、何かバイクと研究を結び付けられないかと。バイクといえば事故が多い。では、どうやって死亡事故を減らせるか。ヘルメットを被りましょうというのでは当たり前すぎるし……。
岩上
あー、それです。それ、やりました。
石山
ヘルメットの大切さはみんな知っている。でも、調べてみたら胸を強打して死亡するケースがけっこうある。だからプロテクターだ。プロテクターの大切さを周知するにはどうしたらいい。ということで、ここで大学生なりの発想で、どんな女優さんに宣伝してもらったらいいかみたいなことを研究したよね。
岩上
はい、調べました、それ。
石山
調べてみたら実際に警視庁で、すでに女優さんを使ったプロテクター着用のキャンペーンをやっていたことが分かって。で、こんな卒業研究になりましたけどどうしましょう、という感じで終わったんだよな(笑)。
岩上 
はい、そのような形で終わりましたね。結局もうやってますやんって感じで(笑)。
石山
卒業研究で大学生がよくやるのは、ある問題に対して自分なりに調べて、いくつかの解決策を提示して、それで終わりというものです。でも、それでは面白くない。むしろ本題は、出した解決策がどれぐらい効果があるものなのか、どれだけ説得力があるのか、ここをしっかりと語ってもらいたいと私は思っています。なのに、入口に辿り着いたと思ったらもう終わりですみたいな、もったいない発表が多いですね。
岩上 
今思うと、もうちょっとやり方がありましたね。
石山
大学生は単位さえ取れれば卒業できるので、就職が決まると研究より別のことに頭が行っちゃうんだよね。それはもったいない。社会に出て、何が大切か。大学生のうちにどこまでできるのか。そういうことに早い段階から気づくと、4年間の充実具合がだいぶ違うと思うんですよ。
編集部
岩上さんは、なぜ石山先生のゼミを選んだのですか?
岩上
石山先生のゼミが楽しそうだったからですね。当時、僕の中では何が学べるかというより、楽しいかどうかの方が大きくて、それで石山先生のゼミに入りました。でも、計量経済学の授業は難しかった。分からなくて、結構質問したような気がします。
石山
確かに難しいよね。数式が出てくるから。
岩上
でも、先生は例え話を多くしてくれましたよね。それが面白かったんです。難しいことを分かりやすく説明してくださるので、先生の授業は好きでした。
石山
計量経済学を語るときに、あまり経済学に限定してしまうと面白くないんですよ。箱根駅伝の予選を突破するには何が必要で何が足りないかとか、学生が興味を持ちそうなテーマを考えて、それをデータ分析して、この方法がいいんだぞという話に持って行くことを心がけています。たとえば、ある街でゾンビウイルスが蔓延した。街の人口の半分がゾンビになっちゃうのは何日後でしょう。みたいなことを計量経済学を使って予測するんです。
岩上
そういう感じの話でしたね。
石山
高校レベルの学びでは、街の人口の2倍がゾンビになっちゃうとかいう妙な結果になってしまう。なので、大学ではロジスティック曲線というものを使って考えます。難しそうに聞こえるけど、公式を使えば計算自体は簡単です。それで3?4日で、街の人口の半分がゾンビになるということが分かってしまいます。
岩上
そう、僕はそういうのが好きでした。

大学生活の集大成

編集部
岩上さんは、どんな学生でしたか?
石山
面白い人でしたよ。彼はゼミ長をやっていました。ゼミ長は毎年個性的な学生が選ばれます。君は立候補したんだっけ。
岩上
いや、立候補はしていないです。まわりから「やれよ」みたいな感じで、やったと思います。
石山
ゼミ長はたいへんなんですよ。学生と教員の間に入って板挟みになる役割だから。
岩上
そうですね。みんなの意見をとりまとめたり、授業に来てない学生に電話をかけて「来いや」みたいなことを言ったりしていました。僕の中ではゼミはクラスみたいなものだから、そこが面白くなればいいなと思ってやっていましたけど。
石山
そうだ、面白いゼミにしたいと言っていたもんな。ゼミ長になったときに抱負を語ってくれたんです。リーダーシップがあったんだよね。
岩上 
いや、それはないですね。ただ、みんなの意見をとりあえず聞くぐらいじゃないですか。
石山
それが大事なんだよ。聞くことが。ゼミ旅行のときも、ちゃんとまとめてくれたよね。3年のときも、4年のときも。
岩上
ゼミ旅行はどこに行ったんでしたっけ?
石山 
忘れちゃったの。伊豆だよ。テニスコートがあったでしょう(写真を見ながら)。これが3年のときだよ。4年は熱海に行ったよね。4年生のときは卒業研究の発表会をやろうと言ってたけど、結局鍋パーティーになっちゃたんだよな(笑)。
岩上
なっちゃいましたね(笑)。
編集部
岩上さんは、大学を卒業してすぐ就職したのですか?
岩上
はい、新卒で株式会社しまむらに入社しました。
編集部
その会社を選んだ理由は?
岩上
理由は2点ありまして。一つは僕の地元が埼玉で、しまむらも埼玉の会社なんで、地元企業ということで興味を持ちました。もう一つは、当時しまむらは日本2位、世界7位の売り上げがあって、なんでそんなに売り上げがあるのかと興味を持ったのもありますね。
石山
岩上くんは、内定が出たの早かったよね。
岩上
はい。大学でやりたいことがあったので。
編集部
何がやりたかったのですか?
岩上
アメリカ大陸横断旅行です。大学に入る前に父親から「おれがおまえにあげられる最後のプレゼントは、大学という4年間の時間だ」と言われました。それで、4年生の夏休みに35日間かけて、ロサンゼルスからニューヨークまで横断しました。
編集部
一人旅ですか?
岩上
はい、一人で。バスと電車と徒歩とヒッチハイクで行きました。アメリカ横断は、僕の中での集大成で、卒論みたいなものでした(笑)。1年生のときは東日本を原付バイクで回って、2年生のときは西日本を回って。3年生のときは海外に行きたいと思い、ベトナムを一周しました。で、4年になったらもっと大きいことをと思って、アメリカ横断に挑戦しました。
編集部
たいへんだったんじゃないですか?
岩上
はい、お金をあまり持って行かなかったもので。持っているお金でなんとか35日間を生き延びろというミッションを自分に課したんです。けっこうピンチがありましたね。ヒッチハイクしたり、野宿したり、そういう経験がしたかったんです。
石山
アメリカに行く前に、日本海を目指してキックボードで旅行をしたよね。
岩上
行きました。アメリカに行く前に、ヒッチハイクや野宿の練習をしたいと思って、12月にキックボードと寝袋持って、静岡から新潟を目指して行きました。そこでもピンチがありましたね。びしょ濡れで体温が下がっている中、寝るところがない、みたいな。どんどん強くなって、アメリカ横断に挑もうと思って、それに向けたトレーニングをしました。

今の仕事について

編集部
岩上さんは、会社でどのような仕事をしているのですか?
岩上
本社で紳士部門を担当しています。ただ、アメリカ横断なんかしていたので、入社後、こいつはどこに行っても大丈夫だろうと思われたのか、転勤が多かったです(笑)。最初はいきなり大阪で、そこから岩手、北海道の帯広、さらに札幌に異動して、先月末に本社に戻りました。本社では、日本全国の店舗ごとの在庫調整とか、買い付けた商品をどうやって売るかといった仕事をやっています。
編集部
どうやって売るかというのは、まさに先生がおっしゃる問題解決ですね。
岩上
本当ですね。商品が売れないのには理由があって、なぜ売れないのかを考えなければなりません。デザイン性だけではなく、他にも原因があったりするので。そのへんは本社に来て間もないのでまだ難しいのですが、問題解決という意味では考えなければならない課題ですね。
石山
政経学部経済学科の学びは、社会に出てすぐ役立つという性質のものではありません。もっと長い目で、社会の中心的な役割を担う人材を養成する学びです。岩上くんの場合も、会社で下積みを経験して、少しずつ重要なことを任されるようになると、大学の学びが生きてくるんじゃないかな。
岩上
そうですね。しまむらだけで1,421店舗、グループ全体で2,100を超える店舗があるから、これからは責任も重くなってきますね。
石山
ひと昔前だと、長年の勘だけで経営がうまくいったのですが、今は違います。ビッグデータの時代だから。そういうものを活用しないと、企業も生き残るのは難しい。データをどう分析して、そこからどんな解決策を引きだすか、そういうことができる人材がこれからは重宝されると思います。
岩上
私の場合は、まだまだ下積みが続きそうですけど(笑)。やっとその大きいデータを扱える段階に来たなという感じです。
石山
ただ、仕事で忘れてはいけないのは、分析スキルだけでなく、みんなのため、世のため人のためにやろうという人間性ですね。リーダーは人物面で優れていないと、悪い方向に引っ張っていってしまう。そういう意味では、岩上くんは頑張っていると思いますよ。
編集部
岩上さんは、今の仕事をやっていて、どのようなことを面白いと感じますか?
岩上
自分は仕事が好きだと思うんですよ。何かに追われているプレッシャーがいいんですね。在庫を管理する部署にいるんですけど、私が送った一通が1421店舗に広がって、みんなが作業をしていくので、そういう面ではやりがいがあります。けっこうきついですけど、きつくない仕事なんてないと思うので。無限に湧いてくる仕事をどんどん終わらせていくのが気持ちいいというか。次どんどんやっていくって感じで。
編集部
かなりのプラス思考ですね(笑)。
岩上
何でもプラスに考えた方がいいというのは、旅を通して学びました。本当に人生終わったなという目にあったことも何度かあります。そういうことを経験すると、解決策をその場で考える脳になるのかなと思います。何が起きても「最悪」と思わずに、どうやったら解決できるかを考える。選択肢が頭の中に広がっていくのが楽しいんです。
石山
僕は岩上くんのことがすごく印象に残っていて、卒業後どうしているのかなと思っていたけど、会社でも重要な仕事を任されているみたいで、すごく嬉しいです。
岩上
実は最近、もう一度経済学を学びたくなって、YouTubeなどで解説動画を見ているんですよ。そうすると、ああ、これ授業でやったなということがあって、面白いんです。インフレとデフレとか、円安についてとか、昔の記憶が甦ってきます(笑)。
石山
私の個人的な考えだけど、日本人は就職して社会に出たら、なかなか大学に戻ってこないでしょう。それはもったいない。社会をある程度経験した人が大学に戻って新たに学ぶということをやると、世の中もっとよくなると思う。
岩上
とてもいいですね、それ。今の話をうかがって、大学に戻って一から学び直したくなりました。そうしたら、単位を取りにいく勉強から、自分のためになる勉強へと切り替わると思います。大学に入り直すことはできるんですか?
石山
もう学部はいいだろう。入るなら大学院だね。
岩上
最近思うのは、僕も27歳になって30歳まであと3年間になりました。僕の中ではまだやりたいことがあって、このまま仕事一本では行かないんじゃないかと思うんですよ。
石山
何をやりたいの?
岩上
今はシルクロードを1年ぐらいかけて自転車で行きたいと思っています。会社に在籍したまま行けるといいんですけど、ダメですかね? 自分はまだ子供心が抜けないというか、気持ちが冷めないまま来ちゃっているので。
石山
岩上くんのそういうところ、全然変わっていないね。もうちょっと変わっているかと思ってたけど。いろいろあちこち転々として、また新しい人生の目標も見つけて、いいですね。ぜひそれを実現してほしいと思う。
岩上 
やりたいですね。やりたいことが無限に出てきます。でも、先生も変わりませんね。熱量が大きいというか、熱いというか。すごいなぁと思います。
編集部
岩上さんは、シルクロードの旅で何を得たいと思っていますか?
岩上
アメリカ横断で分かったのは、人生、なんとでもなるってことですね。ピンチが来ても、工夫しだいでどうにでもなる。だからくよくよ考えずに、常に前向きに、どうしたら解決できるかを考えるようになりました。シルクロードでは、肉体の限界と、さらなるピンチに遭遇したとき自分がどうするのかを知りたいです。標高が高くて酸素が薄いとか、そういうときに自分はどうするのか、それに向けた準備を考えているとワクワクしてきます。
石山
過去の大きな成功体験が彼の中にはあって、それがすごく生きているんですね。いやあ、話を聞いていたら、僕も一緒に行きたいかも、シルクロード(笑)。
岩上
行きましょう、先生、人生は一回きりですから(笑)。
編集部
今日はたいへん貴重なお話をうかがえました。ありがとうございました。

石山 健一(ISHIYAMA Kenichi)

国士舘大学 政経学部 経済学科 准教授
●経済学博士/岡山大学文化科学研究科博士課程修了
●専門/計量経済学

岩上 佑介(IWAKAMI Yusuke)

2018年度 政経学部卒業
株式会社しまむら 

掲載情報は、2023年のものです。